老舗の経営とは鎖がつづいているといわれるが、私も鎖の一環で、この鎖がはずれないように、次の鎖をまたしっかりとつながなければならない。鎖がつづいていくところに、老舗というものの生命がある


 ここに黒川の書いた『菓子家のざれ言』より彼の言葉を紹介しよう。虎屋十六代目の「趣味と道楽論」らしくておもしろい。

 「『趣味と道楽』との違いはどこにあるのだろうか。趣味といえないこともないが、本当の趣味かどうか疑わしいものがある。たとえば、酒を飲み歩くこと、うまい料理を食うこと、女の子と遊ぶこと、お洒落をすること、余計なものを買うこと、等々まだあるが、要するに、自分のできる範囲、つまり、時間的にも金銭的にも体力的にも才能的にも―を超えて、趣味と称して前後左右の見境もなしにやるのを道楽と思う。自分の枠を超え、無理して趣味といっているところに道楽が生ずると私は考える。( 中略)
 道楽はその結果がたまには〝芸は身を助く〟〝道楽のおかげ〟とか、消極的に後ろ向きに多少の効用がないではないか、これはすべて、時間、金銭、体力などの消耗の結果から出るもので、逆に趣味とは前向きの積極的な向上への自分自身の糧となるものでなくてはならない。」

 鎖となりまた鎖をつなげるためには、「趣味と道楽」のゆとりがなければならないというわけだ。


【プロフィール】
黒川 光朝(くろかわ・みつとも)1918年生まれ。
祖父の芸術的な血脈と両親の温かい庇護、そして豊かな財力を背景に、老舗の御曹司として育つ。酸いも甘いも噛み分けたユニークな「語録」を持つ男。