よい商品を
人々に知らすこと自体が
世に益することである
森下は「よい商品を人々に知らすこと自体が世に益することであるが、さらに進んで一つ一つの広告そのものが人々に何か役立つようなものでなければならない」という信念のもとに積極的な広告宣伝を展開した。
「商店の売り上げの優劣は、その店がどれだけ人に知られているかによって決まる」という趣旨に従い、全社員が宣伝広報員となり、全国に仁丹のPRに出かけた。
森下仁丹の「金言広告」は筆者も大好きである。
「天は人の上に人をつくらず、人の下に人をつくらず」(福沢諭吉)「堪忍は無事長久の基」(徳川家康)「勝利は最後の五分にあり」(ナポレオン)など、古今東西の五千種類の金言を、電柱広告や看板、紙容器などに取り入れたというから、驚くばかりである。
仁丹のネーミングは、東洋思想の根本を示す儒教の「仁」であり、「丹」は台湾で常用されている薬の名前をヒントに得た。
トレードマークの「大礼服」の由来であるが、外交官なのだそうだ。つまり仁丹は薬の外交官という意味を持つ。
森下の「大衆の健康に奉仕する」に見られるよう、日本の名経営者と言われる人物は公への奉仕、貢献といった理念を強く打ち出しそれを実践している。
【プロフィール】
森下 博(もりした・ひろし)1869年生まれ。
わずか一ミリの丸薬で一世を風靡した「仁丹」を発明した。薬品医療設備の未整備な時代に「大衆の健康に奉仕する」として総合保険企業を築いた。