大黒柱に 車をつけよ
岡田が力を入れていた「ジャスコ大学」の講師として筆者は長い間かかわった。岡田が小売業の地位を高めるためには人材育成しかないとして力を入れた大学である。
経営幹部の研修に岡田氏は必ず出席して強い口調で自己の想いを訴えていた。
「がっちりと家を支えている大黒柱というものは動かしてはいけないものである。しかし、いつでも家を動かせるようにしておくことこそ肝心だ。立地条件に恵まれているところ、発展性の場所があったら、迷わずにその場所に店舗を移すべきである」という主旨のものであった。
岡田の生家は三重県四日市にあった衣料販売の「岡田屋」だ。この岡田屋の家訓が「大黒柱に車をつけよ」であった。父は家訓に従い岡田屋を二度も移転し、そのたびに店は伸びた。この姿をみて岡田は「環境の移り変わりや社会のニーズを的確にとらえて、それに素早く対応していくことが企業の発展を導くカギである」と考えていた。
イオン(ジャスコ)が新幹線の佐久平の駅前にショッピングセンターを出店した時、筆者は各ショップの店長研修を担当したが責任者方は岡田の精神に基づき、「店ごとの特性を生かし、地域になじんだ店づくり」に力を入れていた。筆者もその考え方に添って店長研修を進めたものである。
【プロフィール】
岡田 卓也(おかだ・たくや)1925年生まれ。
三重県四日市市の衣料品店の岡田屋の息子であったが経営の連邦制を考え出し、合併によるジャスコの拡大を図る。流通網の改革を行い今日のイオングループの基礎をつくる。