小さな池に大きな魚を
「小さな池に大きな魚を」とわかりやすい言葉でマーケットシェアを意識した戦略を展開し、町工場から世界のHOYAにリードした理論派経営者である。鈴木は筆者と山城章先生(故人・一橋大学名誉教授)が主催した「KAE経営道フォーラム」の発起人の一人であったことから、筆者も頻繁に訪問し、フォーラム運営の指導をいただいた。
鈴木は当時から「企業価値創造経営」を強調し、「経営とは本来、企業価値を生み出していくものである。“企業は株主のもの”であり、経営者は株主から委託を受けて事業を展開しているわけであるから、自分の会社の『企業価値』を高めて株主に利益を還元していかねばならない」と語っていた。
「企業価値を高めるには自社の強みを活かす中核事業やコア・コンピタンスに集中し、あまり将来性がない事業、収益性が低い事業は整理していく戦略が必要になってくる。つまり『選択と集中』の経営に真正面から取り組み、自社の事業構造を再構築することである」と述べ、自社の強味の商品に集中してその領域でのナンバーワンになろうとした。つまり「ニッチナンバーワン戦略」であり、これが彼のいうところの『小さな池に大きな魚を』=狭い領域で大きなシェアを獲得せよ、ということだ。
【プロフィール】
鈴木 哲夫(すずき・てつお)1924年生まれ。
大学卒業後町工場の社長になる。しかし不況の波をモロにかぶり四十二歳で閑職に退くが再び社長に返り咲き、現在のHOYAの基盤をつくりあげる。