智に走るな!
智は〝はかりごと〟を意味する。
智にのみ走ることは整合性にもとる。
六代目チョウベーさんは、生まれながらのボンボンで、イギリス留学で身につけたオーソドックスな風格をもつ紳士だったそうだ。そのせいか奇略、奇襲やゲリラ的な発想を嫌ったようだ。
「常に堂々たる戦略展開が商売の道である」と説いた。「智仁勇のバランスは、リーダーの最大の資格である」とも教える。奇襲、奇略で勝つのは戦線の一方面であって、たとえ勝ったとしても、二度、三度の勝利はできないというものだ。
智仁勇のバランスのとれたリーダーがいれば、時間の差はあっても、その軍団は一流に育っていくという。この六代目チョウベーさんの思想は、たしかに武田薬品が堂々たるトップメーカーになった大きな基盤となっている。一方、社員達には“勇猛果敢”を強調した。「ものごとというものは徹底的にやらんとあかん。また失敗を恐れては何もできん。熟慮したうえ決断する。よし。やってみなはれ!」
以下に武田薬品工業の社是「規」を紹介しておこう。
社是 「規」
一、公に向ひ国に奉ずるを第一義とすること
二、相和ぎ力を協せ互に忤はざること
三、深く研鑽に黽めその業に倦まざること
四、質実を尚び虚飾を慎むこと
五、礼節を守り、謙譲を持すること
【プロフィール】
武田 長兵衛(たけだ・ちょうべい)1905年生まれ。
三十八歳の若さで、六代目武田長兵衛を襲名社長に就任、三十一年間の社長時代に、タケダを世界有数の薬品メーカーに育てあげた。