〝士魂商才〟
建築は商売であってはいけない
営利だけを追求する建築商であってはならない正しい道を正しく歩んで、信用を第一に重んじることで、得意先が次々とふえていく


 竹中は苦闘の中から生まれた豊富な話題と、独特な語り口に、人々は酔ったように耳を傾けたという。
 「私どもは、元来、広告宣伝は不得手でもあるし、やろうとも考えない。昔は『表に看板がないのは竹中だ』といわれたものである。近年になって現場では看板を出す規則になったが、それもできるだけ大きくしないようにしている。
よいものができれば、その建物が客をよんでくれる。広告や宣伝が客をよぶのではない。こういう主義の下に縁あって集まり、その中でお互いに力を合わせてそれぞれのベストを尽くしていこうではないか……」
 なんといっても竹中が誇るのは、当時のエッフェル塔より三十三メートルも高い世界一の高さとなった、東京タワー三百三十三メートルの大鉄塔の建設であろう。 
 建設業界の名門、竹中工務店の名声は日本はおろか海外にまで知られることになったのも東京タワーのおかげである。
 竹中工務店には創業者の魂が込められた「竹中の棟梁精神」というものがある。それは「作品((建築物)のすべてに責任を持つ」というただ一言である。


【プロフィール】
竹中 藤右衛門(たけなか・とうえもん)1878年生まれ。
竹中の先祖は織田信長の普請奉行をしていたという。その後、社寺造営を家業とした工匠竹中家の十四代目で世界一高い、東京タワーを作った。