企業を森林とみるならば、社員は一本一本の樹木である
各々の樹木が自らの力で生きていこうと努力すれば、森林全体が生気に満ちあふれて隆盛を迎える


 吉田は幼いころからたいへんな勉強家で、偉人伝が大好きであったという。
 吉田は、その中でもカーネギー伝が気に入っていて「他人の利益をはからなかったら自らは栄えない」という言葉に感動する。
 経営者になってからもこの言葉を大事にして、“善の循環”を訴え続けた。吉田は企業と社員の関係として打ち出した。
 “森林集団”というのがそれだ。
 社員一人一人がおさえつけられて、管理・コントロールされていたのでは組織は硬直化してしまう。社員個々が自律性を持ち自己管理することで、組織は柔軟な動きが生まれ生産性が向上し、組織活動が活発化してくるというわけだ。
 吉田の考えた“森林集団”の理念はその後様々な人事面に特に反映されるようになる。
 当時YKKには 〝青空役員会〟というものがあった。この席上ではたとえフレッシュマンでも、遠慮なく会社のトップとオープンに話し合うことができたという。
 また、「企業自体も社会の中では一樹木である、皆でがんばって社会の繁栄に貢献しよう」と吉田は訴えた。


【プロフィール】
吉田 忠雄(よしだ・ただお)1908年生まれ。
ファスナーの国内のシェア(市場占有率)は一時九十数パーセント。世界のシェアも四十数パーセントまで伸ばした実績を持つ、名実ともに世界企業の王道を歩いた創業者。