企業とは人間を磨く
あるいは人間としての
喜びをもつ道場だ


 筆者は産業能率大学の経営管理研究所に勤務していた時代、TDKの千葉にある研修センターに管理者研修で通い詰めた。そこには素野の理念が息づく人材育成への姿勢があった。
 素野の持論の中に『企業=人間道場』というものがある。「企業とは人間を磨く、あるいは人間としての喜びをもつ道場だ」と素野は語る。
 その道場訓というべきものが「修破離」である。これは素野の語録としてもまとめられ、TDKの社内用の小冊子として発行され、社員のバイブルとして全社員に手渡された。筆者が担当したのはこの考えに基づく「O.J.Tリーダー養成コース」であった。
 その「修破離」であるが、「修」は習って覚える段階、「破」は喜び覚えたことを破る段階、「離」はさらに「破」からも離れて、真の新しい境地に入るということだ。
 これは日本の伝統的な習いごと、特に茶道とか華道のように、師についてお弟子さんが一つの道を習熟していく場合に、伝統的に行われてきたステップである。
 筆者も素野の影響も受け現在の「経営道」の学び方、身につけ方を語っている。
 「今ここ道場、今これ行」である。


【プロフィール】
素野 福次郎(その・ふくじろう)1912年生まれ。
鐘紡に入社したが、自分の力を発揮する場所を求め退職して、たった四人の町工場の東京電気化学工業に入社し、TDKを今日に導いた人物。